第7回 【会社設立の登記】編 ~ 定款に、『会社の目的』を定める理由  ~

【会社の目的とは】

会社の定款中には、「会社の目的」を定める必要があります。 「会社の目的」とは、その会社が、行っている事業の内容や概要のことを指します。 「各種工業製品の製造並びに売買」、「貿易業」、「不動産の売買・賃貸・管理及びその仲介」など、具体的な業種を示すのが通例となっております。

●定款に、「会社の目的」を定める理由 その1:会社の実態把握の手段

「会社の目的」は、法律上、定款中に、必ず定めて置かなければならない事項(会社法第27条等)とされ、法務局が管轄する商業登記簿にも、その旨が登記されております(会社法第911条3項等)。 商業登記簿に登記されている「会社の目的」の内容を確認することによって、その会社が、どんな事業をしていている会社なのかを知ることができます。商業登記簿は、誰でも見ることができるため、これから会社と取引を行おうとする者は、まず商業登記簿を閲覧し、会社の概要を確認することからスタートします。「会社の目的」は、数ある登記事項の中でも、その会社の実態を明らかにすることができる情報として、非常に大きなウェートを占めているため、「会社の目的」が、会社定款で定められ、登記によってしっかり公示されていることが、市民同士の取引の安全に、一役買っていると言えます。

●定款に、「会社の目的」を定める理由 その2:権利能力を有する範囲を制限

民法第34条は、法人の権利能力について、「法人は、法令の規定に従い、定款その他基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」と規定しています。 株式会社は営利法人なので、この条文を、そのままあてはめれば、株式会社は、予め定款に定められている「会社の目的」の範囲内に属する行為については、権利能力を有するので適法に行うことができるが、「会社の目的」の範囲を越えるような行為に関しては、権利能力を有していないとされるため、違法で行うことができないという結論になります。 民法にこのような規定があるため、会社が、定款で定められている「会社の目的」の範囲を、越えるような行為(※以下、『会社の目的外行為』と呼びます)を行ってしまった場合、その行為は、法律上有効なのか無効なのか、その法的効果の取り扱いについて、かなり古い時代から国内・外国で、議論が繰り返されておりました。従来、会社の目的外行為は、民法第34条の規定を、文言通りに忠実に解釈して、基本的に無効とするべきだという考え方が主流でした。そもそも株式会社は、賛同者がお金を出資し合い、共同で株主となり、その集まった資金をもとに、利益を生み出していくシステムを採る営利法人であるのだから、会社が本来の「会社の目的」とは関係のない行為を行った結果、損失を出し、株主を害するような事態はあってはならないので、予め定款に「会社の目的」を明確に定めて置くようにし、会社の権利能力を制限することで、株主の利益を保護する必要があると捉えておりました。 そのため、会社が何か行為をする度に、それが目的外行為にあたるから無効であると言われて、責任の追及をされることを恐れた経営者たちは、会社が現に行っている事業や将来的に展開しようと計画している事業内容だけでは足りないと考えて、会社が会社の行為として行う可能性があると思われるものを逐一ピックアップし、「会社の目的」として定款に定めるという事態が続出しました。その結果、定款の「会社の目的」の数が、数千にも及んだという会社が欧米には、あったとのことでした。 しかし、会社の目的外行為に当たる可能性がある行為を、民法第34条の条文の言葉通りに、全て形式的に無効とするという取扱いは、実際の取引社会の実情に合わず、株主の利益を保護するという趣旨の反面、会社を信じて取引を行った相手方(第三者)を著しく害してしまうものとして、強い批判がありました。また、そもそも何が会社の目的の範囲内に属する行為であって、何が会社の目的外行為にあたるのか、その基準も曖昧で、区別は非常に困難でした。 株主が、会社の目的外行為を行い、損失があったことを理由に、役員の責任を追及する訴訟が頻発するなか、最高裁判所が、次のような判断をし、会社の目的外行為の法的効力の取り扱いの問題について、一定の決着を付けました。 ・「会社の目的自体に包含されない行為であっても、目的遂行に必要な行為は、目的の範囲に属する」(最判昭27・2・15民集六-二-七七)。 ・「(営利)法人の行為が、当該法人の目的の範囲内に属するかどうかは、その行為が法人としての活動上必要な行為でありうるかどうかを客観的、抽象的に観察して判断するべきである」(最判昭44・4・3民集二三-四-七三七)。 ・「会社による政治資金の寄附(※会社による特定政党に対する献金が、会社の目的外行為であると争われた事件)は、客観的に、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められる限り、会社の権利能力の範囲に属する行為である」(最大判昭45・6・24民集二四-六-六二五)。 このように、会社の行為が目的の範囲内に属するかどうかは、その行為が「会社の目的」に関係しているものであるか、会社として活動する中で必要な行為かどうか等、客観的、抽象的に観察して、総合的に判断するべきであると、最高裁判所は判断しました。こちらが、現在の通説的な考え方となっております。定款に定められている「会社の目的」の文言自体そのままを基準にするのではなく、行為の目的・意図・趣旨・態様などを、具体的に精査し、柔軟に判断する必要があると言えます。

●定款中の「会社の目的」の定めの記載は、どの程度必要かについて。

上記最高裁判所の判例の趣旨が示すとおり、会社が定款に記載のない行為を行ったからといって、それが直ちに「会社の目的外行為」と認定される訳ではないので、定款中の「会社の目的」の定めの記載については、あまり過剰に、神経質になる必要はありません。よって、定款中に、「会社の目的」を、不必要なまでに、あれもこれもと羅列する必要はないと考えられます。あまりにも「会社の目的」の数が多いと、それだけ複雑となり、会社の実態把握という面においても、マイナスに働いてしまうと思われます。 しかし、法人は、法律によって特別に、市民社会において権利能力を有すると認められた存在なので〈第1回記事参照〉、自然人とまったく同じように扱う訳にはゆかず、法人の権利能力を「会社の目的」の範囲に限定する民法34条の原則規定の趣旨は、尊重される必要はあると思われます。現に行っている事業や将来、ビジネスとして計画している事業の内容については、「会社の目的」の定めの中で、明示するべきと考えます。 また、業として行うのに、事前に国・地方公共団体から許可を得る必要がある事業形態については、定款中の「会社の目的」に、許可対象となる事業の内容をしっかり定めていないと、許可を得られない場合がある等、注意が特に必要です。 ≪参考資料・文献≫ ①「民法Ⅰ 第4版 総則・物権総論」 内田貴 著 東京大学出版会 2008 ②「新基本法コンメンタール会社法1」 奥島孝康・落合誠一・浜田道代 編 日本評論社2010 ③「論点解説 新・会社法―千問の道標」 相澤哲・郡谷大輔 ・葉玉匡美 著 商事法務  2006 (続)

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