前回の記事は、未成年者であっても、大人と同じように、会社を設立してビジネスをすることができるというお話でした。しかし、同じ未成年者であっても、若年(おおよそ15歳未満)の未成年者については、法定代理人の同意を得ても、単独で会社設立行為をすることが事実上、制限されております。なぜ未成年者の年齢によって、異なった取扱いがなされているのでしょうか。その主な理由は、次のように考えられております。
①市区町村に印鑑登録をすることができない(形式的・手続上における理由)
15歳未満の未成年者は、市区町村に自分の印鑑を登録することができません。そのため、あらゆる会社設立の手続き上、必要とされる印鑑証明書を、用意することができません。
公証役場で定款認証を受ける際に、発起人として、定款に押印した印鑑の印鑑証明書の提出を求められます。また、法務局に会社設立の登記をする際にも、登記申請の添付書類として、印鑑証明書が必要となります(※役員に就任する場合)。つまり15歳未満の未成年者は、印鑑証明書自体を入手することができないので、原則このような手続きを行うことができないのです(※公証役場によっては、法定代理人の印鑑証明書を添付する特別な方法を採ることで、印鑑証明書を提出することができない未成年者の定款認証手続きを行うことができる場合があります。取扱いは、公証役場ごとに違うので、確認する必要があります)。
これは、手続き上必要とされている「印鑑証明書」を用意することができないという形式的な理由に過ぎませんが、印鑑登録をすることができない者は、印鑑証明書を不要とするような特例は、基本的にありませんので、15歳未満の未成年者は、事実上、単独で会社設立手続きをすることが制限されているものと言えます。
②若年の未成年者は、意思能力が備わっていない可能性があるため(実質的な理由)
若年の未成年者が単独で行う法律行為については、慎重な判断及び検討が必要とされております。
若年の未成年者は、自分が行っている行為が、どのような意味を持ち、その行為によってどのような効果が発生するのか、理解できる能力(※「意思能力」と呼びます)が、欠如あるいは大人に比べて低いことが一般的です。意思能力がない者が、行った法律行為は、当然に効力を生じないとされています(民法など法律に明文の規定はありませんが、当然のこととされています)。自分の行った行為の結果を判断する能力がない者に、その行為によって発生した責任を負わせるのは、酷だろうという考えが基になっているからです。
通説では、意思能力があるとされる年齢は、おおむね10歳くらいからとされています。
しかし、本当に意思能力が備わっているかどうかは、行う行為の内容によってもかなり変わってくると思われます。
例えば、10歳の子供が、親戚におもちゃを買ってもらう場合(※贈与契約)、自分が
そのおもちゃをもらえるのだという意味は、理解できるものと思われます。しかし、不動産の売買契約書に、買主として印鑑を押したら、お金を払わなければならないということを、10歳の子供がしっかり理解できているかどうかは、疑わしいものと思われます。
会社設立行為も法律行為に当てはまるので、若年の未成年者が、会社を設立するということについて、ちゃんとその意味を理解して行っているのかどうか、その判断は非常に難しいものと言えます。会社設立行為には、会社にお金を出資をしたり、自分が役員に就任して会社の経営を行うなど、重要な取引行為も含まれております。仮に、意思能力が欠けていると判断されれば、未成年者が行うこのような行為は、無効となってしまう危険があります。
ウェブ業界などでは、若い未成年者でも、大人顔負けのビジネスを展開している時代であることから、一律に年齢だけで判断することは、どうかという議論もなされてはいるようです。しかし、大人より判断能力が劣ることが一般的である未成年者保護の観点からも、15歳未満のような若い未成年者が、単独で会社設立行為をすることは、慎重に検討を要する問題であると思われます。
≪参考資料・文献≫
①「民法Ⅰ 第4版 総則・物権総論」 内田貴 著 東京大学出版会 2008
②「新基本法コンメンタール会社法1」 奥島孝康・落合誠一・浜田道代 編 日本評論社2010
③「論点解説 新・会社法―千問の道標」
相澤哲・
郡谷大輔 ・
葉玉匡美 著 商事法務 2006
(続)