●いざ、「会社」を作ろうとするとき、最初に何を考える必要があるでしょうか?
まっさきに思い付くのは、会社の『人』や『お金』についてです。具体的には、会社にお金を投資してくれる人(株主)や会社を経営するメンバー(役員)を探し、会社の規模によっては、従業員も募集しなければなりません。起業家にとって、この『人』や『お金』を集めるタスクは、時間とコストがかかる大変なもので、なかなか会社を作れず、ビジネスをスタートさせることができないという話も、お聞きします。
しかし、例えば、株式会社の場合、会社の構成員となる人間(※株式会社において、「株主」のことを言います)が、最低1名いれば、会社(通称「一人会社」)を設立することが出来ます。新しく起業をしたいと思う人が、自分ひとりだけで、自ら会社にお金を出資し、自ら社長となって、会社を設立し、すぐにビジネスをスタートさせることができるのです。社員の人数、資本金の額、現在過去の商売業績や実績などは、関係がありません。法律で決められた設立の手続きを行えば、どなたでも自由に、迅速に、株式会社を、作ることができます。つまり、とりあえず会社を設立し、ビジネスをスタートさせた後、継続的に、会社の『人』や『お金』を集めていくという合理的な方法を採ることも可能になります。
●通称「一人会社」は、法律上認められているもの?
会社に、人間がひとりだけしかいない、通称「一人会社」が、法律上、認められているのかという問題があります。一般的に会社という言葉を聞くと、オフィスに人がたくさん集まって働いているイメージがあるかと思われます。ひとりだけで、商売をしているものに、それを会社とするのは、なんか変ではないかという違和感は、確かにあります。また、法律上の規定も、旧商法下では、株式会社の設立時に、株主は最低7名以上が必要とされていました(平成2年改正前旧商法第165条)。最低7名の株主を、探して来なければ、株式会社を作ることができませんでした。さかのぼり、戦前においては、会社設立後、株主が7名を下回ったときは、株主会社は解散するとさえされていました(昭和13年改正前第221条3号)。さらに、法律上の定義として、会社は、社団法人であるという規定がありました(旧商法第52条・54条)。従来、会社は、営利事業をすることを目的とした人の集まり(※これを法律用語で「社団」と言います)であって、それに法人格が付与されたもの(※これを法律用語で「法人」と言います)であると、考えられていたようです。
このように会社は、社団法人であると法律で明確に定められているのだから、人の集まりの実態がない「一人会社」は、認められない。そんな疑問や考え方が、存在しておりました。しかし、取引社会の要請上、旧商法時代から、「一人会社」の存在は、一般的に認められておりました。上記の、設立時株主の人数制限や株主の最低人数を下回ることにより会社が解散する等の旧商法の諸規定は、逐一改正・廃止し、取引社会の要請に応えておりました。現行の会社法は、「会社は、法人とする」(会社法第3条)と規定しています。会社法は、会社を社団法人とする旧商法第52条・第54条の規定内容を、そのまま引き継ぎませんでした。これは、「一人会社」の設立が、当然に認められていることを、法律の条文上からも、はっきりさせるために、人の集まりの意味を持つ「社団」という言葉を、条文から意識的に、取り除いた趣旨ではないかと、考えられております。
≪参考文献・資料≫
①「民法Ⅰ 第4版 総則・物権総論」 内田貴 著 東京大学出版会 2008
②「新基本法コンメンタール会社法1」 奥島孝康・落合誠一・浜田道代 編 日本評論社2010
(続)