第6回 会社設立の登記】編 ~法人構成員の責任限度の範囲  有限責任と無限責任~

法律によって設立が認められている法人の形態(株式会社、持分会社、一般社団・財団法人等)の中から、ビジネスモデルに合う法人の形態を選択し、自由に設立をすることができるというお話を、これまで紹介して参りました。 この法人形態の選択をするとき、非常に重要な問題があります。 『法人構成員の、法人債権者に対する責任限度の範囲』についてです。 法人が自己の法人財産で、債務の弁済をすることができなくなった時、その法人の 構成員は、法人に代わって、法人債権者に対して、法人債務の弁済をする義務があるかという問題になります。もし、法人(例えば、株式会社)に出資を行った法人構成員(例えば、株主)にも法人自体が負担した債務の弁済の責任があるということであれば、法人構成員は、出資をすることをためらってしまうということも考えられます。 【1. 一般原則 ~ 個人が負った債務は、個人が責任を持つ】 例えば、Aにお金を貸しているXは、Aがお金をまったく返さなくなった場合、裁判所に訴えを提起し、勝訴判決を得て、Aの所有する財産について強制執行(差押え)をし、財産を金銭に換価し、貸金を回収する手段を取る必要があります。 この時、Aに差押えられそうな、めぼしい財産がないからといって、Xは、Aとは全くの他人であるBに対して、Aの債務についての支払いを求める裁判をすることはできません。また、Bの財産について差し押さえをすることも、許されておりません。 自らの意思で負担をした債務については、その人個人が責任を持つことが、大原則とされているからです。Bは、他人であるAの債務を肩代わりする義務は、一切ありません(※BがAの保証人となっていたケースも考えられますが、その場合は、Bと債権者Xとの間で、保証契約を締結しています。Bは、自らの意思でXに対して保証債務を負っていることになりますので、Xから請求されることは当然であります)。 【2. 法人の場合 ~ 例外有】 法人が、債務の弁済をすることができなくなった時、法人債権者は、その法人の構成員に対して、法人に代わって、法人債務の弁済を求めることができるのでしょうか?法人の構成員は、自分の個人財産を出してまで、法人債務を弁済する必要があるのでしょうか? 上記1.の一般原則をそのまま当てはめると、法人とその法人構成員は、法律上それぞれ別々の権利主体とされているので、法人が負った債務に対して、その法人構成員が個人で弁済をする必要はないという結論になります。 しかし、法人に関しては、その形態により、上記1.の一般原則とは異なったルールが、採用されており、結論が変わってしまいます。すなわち、法人の形態によっては、法人債務について、その法人構成員に、弁済の義務が生じることがあります。 【3.会社形態によって異なるルール ~ 有限責任と無限責任】 ●株式会社 株主は、会社債権者に対して、会社に出資をした金額(株式)を限度に、責任を負います。会社の経営が傾き、債務超過になったとしても、株主は、出資した株式の金額が戻って来ないというリスクだけを負うものであり、会社債権者に対して、それ以上の責任を負うことはありません。すなわち、会社債権者は、株主個人に対して、法人債務の弁済を求めることはできません。このルールを株主の「間接有限責任」と呼びます。 株式会社は、会社の所有(会社のオーナーは、株主であること)と経営(会社の経営は、取締役など経営のプロフェッショナルである役員が行うこと)の観念が、原則分離をしているタイプの法人となっています。 会社経営のルール(役員の選任方法、・株主総会の運営・取締役の職務の執行などその他会社経営に関する決まりごと)、公正明確な会計計算基準(貸借対照表等の計算書類を作成し、公告をする義務があることなど)及び厳格な配当等規制(株主への配当・自己株式の取得など、会社財産の不当な流出を防止する仕組み)が法律で逐一定められているため、会社の財産と株主個人の財産は、完全に峻別されます。このようなシステムによって、会社の財産は、厳格に管理・担保されており、会社債権者の保護が図られていると言えます。よって、会社債権者は、会社財産だけを自己の債権の引き当ての対象とすれば良く、株主個人の財産までを当てにする必要はないと考えられていることが、株式会社の株主の責任限度が、有限責任とされている理由とされております。 ●持分会社1 (合名会社及び合資会社の無限責任社員) 社員個人は、会社債権者に対して、原則無制限に責任を負います(無限責任)。会社債権者が、直接社員個人に対して、債務の弁済を請求し、社員個人の財産を差し押さえることも可能です。 しかし、持分会社の社員は、常に個人の財産をもって、会社債務を弁済しないといけない訳ではありません。会社に、債務を完済するのに充分な財産があるときは、まずは会社財産をもって弁済させることが当然であり、それでも完済が出来ない時になって初めて、社員個人レベルで弁済の責任を負うものとされております(会社法第580条・第581条)。 持分会社は、株式会社のように、所有と経営の観念が分離されておらず、原則法人の構成員たる地位の社員が、会社のオーナーであるのと同時に、経営者であることに特徴があります。 すなわち、所有と経営が一体となったタイプの法人であり、持分会社と社員は事実上、一心同体の存在に近いものと考えられているため、無限責任のルールを採用されていると考えられております。 また、持分会社は、貸借対照表の公告義務がないなど、会社財産と社員個人財産の区別を担保する制度が、株式会社に代表される所有・経営分離型の会社ほど、厳格ではないなど、社員の責任限度を無限責任にする制度上の理由も見受けられます。 ●持分会社2 (合同会社及び合資会社の有限責任社員) 株式会社と同じく、社員の責任限度は、有限責任とされております。いずれも平成17年会社法改正により、持分会社の特別な類型として、認められた会社形態となります。上記の通り、持分会社は、会社の所有と経営の観念が一致した会社が原則ですが、立法政策により、従来は認められていなかった業務執行社員の責任の限度を、有限責任とするタイプの持分会社も用意しております。 ●一般社団法人・一般財団法人 一般社団法人及び一般財団法人についても、株式会社と同様、所有と経営の観念が分離されており、法人運営のルールと公正明確な会計計算基準及び厳格な配当規制の仕組みが確立されています。法人債権者の保護の観点からも、充分担保されている制度があるので、法人構成員の責任限度の範囲は、有限責任と考えられております。 ≪参考資料・文献≫ ①「民法Ⅰ 第4版 総則・物権総論」 内田貴 著 東京大学出版会 2008 ②「新基本法コンメンタール会社法1」 奥島孝康・落合誠一・浜田道代 編 日本評論社2010 ③「論点解説 新・会社法―千問の道標」 相澤哲・郡谷大輔 ・葉玉匡美 著 商事法務2006 (続)

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